【案内人ブログ】No.59 『三浦綾子論 その現代的意義』を読んで 記:森敏雄

案内人ブログ

三浦綾子生誕百年記念として、小田島本有著『三浦綾子論 その現代的意義』が出版された。6月3日発売開始、インターネットでは、

没後20年以上が経った現在でも、三浦綾子の文学はまったく色褪せていない。「罪と神によるゆるし」をテーマとした作品群に強固な普遍性があるのはもちろんだが、そこにはさらに読者の心を揺さぶる何かがあるのではないだろうか。

などと紹介されている。
小田島氏のこの著書は作家論ではなく、作品論である。これを読んで、私は次の各項を改めて記憶に留めた。今後の案内人活動に役立てたいと思っている。

『道ありき』 三浦夫妻にとって、前川正は二人の結婚生活の原点であった。
『氷点』   家庭を中心に据えた〈嫉妬〉の文学である。
『続氷点』  一つのキーワードが配置されている。それは「わびる」という言葉。作者は作家=夏目漱石を根底のところで意識していた。
『ひつじが丘』 作者の脳裏には夏目漱石の作品『こゝろ』があった。
『天北原野』 孝介・貴乃をメインに据えた物語だが、戦争という状況を背景に描かれた壮大なドラマである。戦争へのこだわりはやがて『銃口』という作品を生み出した。
『続泥流地帯』 テーマは「苦難」である。旧約聖書「ヨブ記」参照。

ここに明治の文豪「夏目漱石」が登場してくる。漱石が1907年(明治40年)朝日新聞社に入社したことはよく知られている。漱石は『虞美人草』以下、次々と朝日新聞小説を発表(創造)してきた。その数14作品。佐古純一郎著『三浦綾子のこころ』によると、
① 『氷点』は朝日新聞小説における「漱石山脈」の正統をもっとも忠実に生かした小説である。
② 『漱石山脈』のテーマは人間のエゴティズム。自己中心、ジコチュー。これが罪のもと!
と解説されている。三浦綾子が夏目漱石と師弟のような関係にあったことは初耳であり、すごく嬉しい。目からウロコであった。

この著書を読んで気付いたことは、『氷点』=読者が誰に寄り添って読むかによって、作品の見え方が大きく異なってくる。『塩狩峠』=主人公は永野信夫だが、これを三堀峰吉の側から眺めると、作品は異なった相貌を見せてくる。などという読書の醍醐味というか、読み方への新たな視点、つまりは二度読み三度読みが勧められたのであった。
なお、サブタイトル「その現代的意義」については、具体的に列挙されているわけではない。実は小田島氏は1999年(平成11年)10月12日、綾子さんの死に大きな衝撃を受けた。洋の東西を問わず、各層各人からさまざまな追悼や惜別の言葉が続き肝を潰した。自分は国語教師であり文学研究者、北海道にこのような作家がいたことを後世に伝えていかなければならない。それこそが私の使命!と決意した旨を語っている。現代社会は総じて閉塞された混沌たる状況にある。新型コロナウイルスの影響は絶大であった。医療崩壊、教育格差、人口減少、自然災害も極めて深刻だ。最近ではロシアのウクライナ侵攻問題が発生した。非戦&平和こそ綾子さんの本懐だ。三浦文学作品がそれら事象からの脱出のヒントになれば、何よりも嬉しい。小田島氏の熱い思いに共感し、私達三浦文学案内人も三浦文学ファン拡大に最善を尽くしたいものである。

最後に、30ページに登場する岡野宏文・豊崎由美両氏の対談『百年の誤読』(ぴあ、2004.11)について、一言異を唱えたい。それは『氷点』懸賞金1千万円に触れた箇所だが、現在の貨幣価値で5千万円くらいの価値があると取り沙汰されている。私達は1~2億円と教えられ、私は中間をとって1億5千万円くらいの価値ありと説明してきた。どちらが正しいのであろうか?また、綾子さんは自分たちのためには1円も使わないという固い決意を持ち、それを見事に実践したことも、是非知っておいて貰いたいところである。応募総数731点についても、たったそれだけと驚かれたようが、800~1000枚という枚数制限があったこと及びプロの作家も応募できた超狭き門であったことを、しっかりと認識して欲しかったと思うのである。

by 三浦文学案内人 森敏雄

タイトルとURLをコピーしました